2006年06月04日

掌中の珠

銀さん待ち惚け土銀SS。

             ―掌中の珠―

ビーダマが転がる。音もなく転がる。
否。無音という訳ではなく。

畳を摩擦するかすかな音が聞き取れるほど、この部屋は静かだった。


「あ゙〜〜〜〜‥‥」

べたりとうつ伏せに寝転がり、枕代わりにした腕に顎を乗せたまま銀時は呻く。
開いた左手の人差し指は、ビーダマを畳に押し付ける。

力を入れすぎ、ビーダマはするりと指先から逃れた。少し腕を伸ばし、指で弾く。
勢い良く転がって、襖にぶつかり跳ね返り、
従順に無機質に、手元まで転がり戻ってくる。

「眠いっつーの…」
うとうとと襲い来る眠気には逆らおうとしない。

人を待つというのは楽しい事じゃないと、待たされる度に思う。 自分が待たせた時の事はすっかり棚に上げて。

はぁ、と溜め息を一つ吐いて、そのまま思考はストップした。

 

「―――オイ、寝てんのか?」
アイツの声が聞こえる。やっと来たのか待ち惚け食わせやがって。

少し上昇した体温の中途半端な心地良さが、意識以上の覚醒を妨害する。
声は聞こえているのに、脳はちっとも身体に起きることを促さない。

「起きろ、銀時」
肩をつかんで揺すられる。

「んーー起きてる起きてる‥‥」
「人の事散々急かしといて 労う言葉の一つもねぇのかお前は」
「あと、一分…三十秒でいいから寝かせろ………」
「十五秒以内に起きないなら置いてくぞ」

ぎゅっと瞑っていた目を開け、閉じそうになるのを必死に堪える。
…のだがすぐに目蓋の重さに敗北を喫した。

「オイ…」
痺れを切らしたのか、つかまれていた左肩をぐいと引かれ、仰向けに反される。
「ぅわっ」
ごろりと回転する感覚を自覚する間もなく間髪を要れず引き起こされて、頭が少しくらくらした。

両肩の手を放されたら、素直に重力に従うだろう。

「乱暴だなこんにゃろ。ふあ〜ぁ…」
「蹴らなかっただけでもありがたく思え。テメーがあれだけ騒ぐから仕事抜けてきてんだ。 ったく大人気ねぇな高が祭りくらいで…」
「ああっそうだった! 神楽達が喜び勇んで出かけてくのを見送るのがどれだけ辛かったか!!」

子供達と一緒に行くこともできた。でもしなかったのは一緒に行きたかっただけじゃなく、無理矢理こじつけた“約束”自体が嬉しかったから。

「わた菓子! チョコバナナが!! オレを呼んでいるゥゥゥ!!」
全身が糖分を求めて本能的に立ち上がる。

「一応パトロールも兼ねて行くんだ。あんまりはしゃぐなよガキじゃねーんだから」
「いーじゃねーか祭りの日ぐらい無礼講だ! 奢りで食えんのにしけたこと言ってられっか!」

銀時はまだしゃがんだままだった土方の腕を引っ張って、ドタバタと部屋を出ていった。


すべてを傍観していたビーダマが、畳から伝わる振動を律儀に受動して揺れる。
映り込む夕焼けを切り取った窓は、次第に彩度を落としていく。


義務的な移り気が次に写すのは、きっと――満面の笑顔。


―end―       (2006.5)



sironeko_long7 at 18:47│Comments(0)TrackBack(0)土銀 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔