2006年05月09日

やっと書き上がった土銀SS

パソコンに送信して続き書いたら案外あっさりしあがっちゃったよ(つД`)

      ―花冷え―

 

 

「せっかくきれいに咲いたのになあ…」

しとしとと雨が降っていた。満開の桜の花片を容赦なく打ち、花の命を縮めていく。

傘を差したまま銀時は桜の大木を見上げていた。

「今年はさっさと花見に行っときゃよかった…いや現在進行系で今オレ花見の真っ最中か」

雨になぶられても咲いたばかりの桜は散らない。
しかし二日三日降り続いたとなると、大分元気がなくなってきているように見えた。


花びらより先に茎が耐えられなくなったようで、外側の枝先から、そのままの姿でぽとりと一輪落下する。

目の前を落ちて逝くそれを、体を前に屈めて摘み上げた。

少し泥が付いたものの、淡紅の花びらは水を弾いて儚くも力強い。



「………?」
春雨で煙る視界の向こうに、思いがけない人物がいた。 いぶかしがって遠巻きに近寄っても、こちらには気付いていないようだ。

薄暗い灰色の視界の中で、その銀色は桜に劣らないほど鮮明に浮かび上がっていた。

何か手に持った物を見つめている。 穏やかとも淋しげともとりがたい表情で。


「銀時」


名前を呼ばれると、顔を上げこちらへ振り向く。

そして気怠そうに開かれた口は、いつものようにひねくれた言葉を発した。

「なんだ多串君か。おサボりですか税金ドロボー」

はねた毛先には雨粒が光る。女々しくはないが、飾り物のような美しさを感じた。

「ちょっと出歩くだけで俺は職務怠慢になるのかよ」苦笑して横に並ぶ。

「そうだ」
「存在自体が職務怠慢なおめぇに言われたかねーな」
枝から垂れた滴が偶然タバコの先を掠め、じゅっと音を立てて火が消えた。

「ここは禁煙だってさ」
‥‥随分と気の利いた桜だな」

吸えなくなったタバコを携帯灰皿に入れ、一緒に桜を見上げる。

「朝…違うか  真っ昼間から何やってんだ? お前」
「何って… 桜見てんだよ」
「いやそういうことじゃなくてだな、どうしてこんなとこで花見をしてるんだって…」

桜はここ以外にもあちこちに咲いている。
なのに何故閑散とした通りにある空き地の、一本しかない桜をわざわざ見に来ているのか。

「知りたい?」
銀時は意味深な語感を乗せ、歌うように問う。


「……実はな、三年前に死んだダチがここに眠ってるんだよ」
「…………」

少しの間の後、伏し目がちのまま銀時は口を開いた。
地面に向かって吐き出された言葉はそのまま転がっていってしまったような気がした。

 

土方はただ銀時に視線を向けることしかできない。


「…な〜んちゃって嘘だっての。もしかして信じた?」
「お前な…」
おどけるように顔を向ける銀時に、呆れて土方は溜め息を吐()く。

「悪ィ悪ィ ちょっと言ってみたかったんだよ。不謹慎でしたスイマッセーン」
軽く言いっ放してまた桜を見上げた。

そのどこか影のある深穏な表情に惹き付けられる。

遠慮がちに、銀時の髪へゆっくりと手を伸ばす。

その刹那、桜の花びらが一枚落ちた。

そしてそれは当然の事とでも言うように、銀時の頭上に居場所を定める。

土方は僅かに目を丸くし、少し躊躇い触れた。
人差し指で花片を払い落とす。

傘を肩に乗せるように差して桜の大木を仰いでいるため、銀時の髪は所々濡れていた。


「そんなにオレの頭触んの好き?
「違ェよ花が付いてたんだよ」

銀時は桜から目を離さない。


手は下に移動し、親指で頬を撫でる。 ほんの少し触れただけで手を下げた。

「…意気地なし。」
「白昼堂々盛るほど餓えてないんでな」



たわわと言っても過言ではないほど咲き誇り、重そうに枝をしならせる大木。

ずっと見つめていると、酔わされるような、魅せられてそのまま違う世界に吸い出されてしまいそうな気がする。

言葉で現せないような、感性。


「あ゛〜…なんか首痛ェわ。多串君、お腹空いたから昼飯おごってよ」
「昼飯って…まだ十時半だぞオイ」
「オレ庵菜美螺厨のバナナパイ食べたーい」
二人は桜に背を向け歩き出した。


春が来れば必ずその訪れを告げる桜。
今年の感動をきれいさっぱり忘れて、来年もまた同じように新鮮に魅了されるのだろう。


「オメー朝メシちゃんと食ってんのか?
「もちろん毎日欠かさねぇっつーの。今日の納豆は古くてなんかジャリジャリしてたんだぜコンチクショォォ!


再び花片が舞い落ちる。ひとひら、ふたひら。

雨が上がっても、きっとすぐに散ってしまう。


どうか散るなと願っても、程無く散りゆく定めなら。


「多串君こそ こんなとこどうして通りかかったの?
「この辺に野暮用があってな」
「徳川健康像探し?
「何それどんだけ壮健な将軍?!


せめて、散り際は飾らずともより一層美しく。


「今持ち合わせあんまりねーけど」
「はぁ? ふざけんなよオレは一銭も持ってねぇんだよ!!


散り終えた直後の醜さからは、目を逸らすから。


土方は新しいタバコに火を点け後ろを振り返る。

五メートル程はあるであろう桜は幽玄と佇んでいた。
淡く発光しているように感じるほど幻想的で、なるほど銀時が見入るのも納得がいく。

「なぁお前の傘ぶつかって歩きづらいし 水、腕に垂れてくるんだけど」
「じゃあ相合傘でもするか?
「うわっ超キモい多串君めっさキモい!!!
「よく考えたら相合傘の方が腕濡れるよな…もっと歩きづらそうだし」


あの桜に寄り添うものは何も無いように見えても、よく見ればきっと何かしらがいるのだと思う。

寂しくはないのだろう。哀しい程優しく美しい。逞しく、人の目を引き付けて止まない。

どこかこいつに似ているが全く違う。

「つかFUJIYAの新作ケーキまだチェックしてねーや」

別に寄り添いたいからこの関係を続けている訳ではないけれど。
目を逸らせない存在であることは否定しない。


「銀時――」
「なに?

「…なんでもねぇ。」

「んだよそのお決まりなパターン」

 

 

唯、日常の一部を共有するだけでもそれなりに幸せなのだと。気付いているから。

お互いに手放せなくなった――相関関係。

 

 

 

並んで歩く二人の足取りはバラバラでも。



sironeko_long7 at 22:05│Comments(0)TrackBack(0)土銀 

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